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「1%でいいので上げてもらえませんか」と言われました。この1%は、いくらのことですか

2026年9月16日

美容室の話です。スタッフは3人、全員が雇用です。固定給180,000円に、その方の技術売上の30%を歩合として上乗せしています。

閉店後、片付けが終わったころでした。スタッフの1人が、言いにくそうに切り出します。「歩合、1%でいいので上げてもらえませんか」

1%。数字だけ聞けば、小さく聞こえます。その場では「考えておくね」と答えて、その日は終わりました。

長いのは、そのあとです。1%上げたら、その方に届くのはいくらなのか。店からは、いくら出ていくのか。1人だけ上げるわけにいかないから、3人ぶんだといくらなのか。どれも即答できないまま、返事だけが宙に浮いている。

みなさんも、同じ場面で止まったことがあるのではないでしょうか。

この記事は、その1%がいくらなのかだけに答えます。

スタッフ1人には月7,000円。店からは月21,000円出ていきます

先に答えを書きます。

この店のスタッフは、1人あたり月70万円の技術売上があります。技術売上というのは、カットやカラーなど、施術でいただいた売上のことです。店販、つまり商品の販売は入れません。

歩合は、この技術売上に歩合率を掛けて出します。ここが肝心なところで、1%というのは支給額の1%ではありません。技術売上の1%です。

同じ方の歩合を、30%のときと31%のときで、並べて計算してみます。

  • いまの30%なら  70万円 × 30% = 210,000円
  • 31%にすると   70万円 × 31% = 217,000円
  • 増えた分は    217,000円 − 210,000円 = 7,000円

増えた7,000円は、70万円の1%と同じ金額です。歩合率を1%動かすと、技術売上の1%が、そのまま動くからです。だから歩合率1%は、その方にとって月7,000円のことなのです。

まとめると、歩合率を30%から31%にしたとき、こうなります。

  • スタッフ1人あたり 月 +7,000円 年 +84,000円
  • 店の営業利益    月 −21,000円 年 −252,000円

営業利益というのは、売上から材料費・人件費・家賃などを引いて、店に残るお金のことです。年の金額は、いずれも月の金額を12倍しています。7,000円の12倍が84,000円、21,000円の12倍が252,000円になります。

では、店の側の21,000円は何なのか。7,000円との関係を、次の節で書きます。

7,000円と21,000円は、別のお金ではありません

ここで「7,000円と21,000円、どちらが本当なのか」と迷う方がいます。どちらも本当です。同じお金を、別の場所から見ているだけだからです。

3人ですから、7,000円 × 3人 = 21,000円になります。店から出た21,000円が、3人に7,000円ずつ分かれている。 それだけのことです。

1年に直すと、店から出ていくのは252,000円。3人の手元に届くのも、合わせて252,000円。同じ金額が、店の側と3人の側に、そのまま書かれます。

上げる前の支給額は390,000円。店に残るのは183,000円です

1%を判断するには、上げる前の金額が要ります。

スタッフ1人あたりの支給額は、こうなっています。

  • 固定給 180,000円 + 歩合 210,000円(技術売上70万円の30%)= 月 390,000円
  • 1年に直すと 4,680,000円

この390,000円は額面です。額面というのは、税金と社会保険を引く前の金額のことで、手取りではありません。3人の平均であって、特定の誰かの給料でもありません。

店の側は、こうです。材料費率は7%、家賃とその他の毎月かかるお金は月600,000円で置いています。材料費率というのは、売上のうち薬剤などの材料に消えていく割合のことです。

金額
月の技術売上(70万円 × 3人)2,100,000円
↳ 材料費(7%)−147,000円
↳ 人件費(390,000円 × 3人)−1,170,000円
↳ 家賃・その他−600,000円
店の月の営業利益183,000円

1年に直すと2,196,000円です。

ここに、先ほどの21,000円が乗ります。歩合率を31%にすると、営業利益は183,000円から162,000円になります。売上は1円も変わっていないのに、店に残る金額が21,000円小さくなる。それが、1%の店側の姿です。

正直に書いておきます。この183,000円は、まだ手元に残る金額ではありません。税金も、借入の返済も、自分の役員報酬も入っていません。雇用のスタッフの社会保険の、会社が負担する分も、まだ引いていません。実際の利益は、この数字より小さくなります。

歩合率1%と、材料費率1%は、店にとって同じ21,000円です

1%の重さを、もう一方から見ます。

材料費率を1%下げたとします。薬剤の使い方を見直して、7%を6%にした場合です。店に残る金額は、月21,000円増えます。

歩合率1%と、まったく同じ金額です。技術売上2,100,000円の1%が21,000円。どちらの1%も、同じ売上にかかっているからです。

違うのは、スタッフの手元です。

  • 歩合率を1%下げると、スタッフ1人あたり 月 −7,000円
  • 材料費率を1%下げると、スタッフ1人あたり  0円

店に残る金額が同じ21,000円でも、片方は誰かの給料が減っていて、もう片方は誰の給料も減っていません。

ただし、材料費率が本当に下がるかどうかは、この計算では分かりません。薬剤の仕入れ値、1回に使う量、余った分の扱いで決まります。どちらを動かすべきかも、ここでは決められません。金額が同じだという事実だけが出ます。

「固定給と歩合の高い方」で払っている店では、1%上げても動かないことがあります

歩合の付き方には、2つあります。固定給に歩合を上乗せする形と、固定給と歩合を比べて高い方を払う形です。

ここまでの数字は、上乗せする形で出しました。高い方を払う形の店では、話が変わります。

固定給180,000円、1人あたりの技術売上70万円の店なら、境目は25.7%です。歩合率がそれより下のあいだは、歩合で計算した金額が固定給に届きません。支給額は180,000円のまま、動かないのです。

つまり、いまの歩合率が20%のこの形の店では、21%に上げても、スタッフの明細は先月と1円も変わりません。店の営業利益も動きません。払う金額が、変わっていないからです。

「上げます」と伝えたのに、明細が先月と同じだった。 これが、いちばん起きてはいけないことです。上げると決める前に、自分の店がどちらの形で払っているのかを、はっきりさせておいてください。

なお、固定給だけを払う形になる月は、時給に直したときに最低賃金を下回っていないかを、先に確かめてください。下回るかどうかは、所定の働く時間と、お店のある都道府県で決まります。

歩合率は、上げるときと下げるときで、要るものが違います。これはどの払い方の店でも同じです。雇用のスタッフの歩合率も、店が一人で決められるわけではありません。下げる場合は、ご本人の同意か、就業規則の変更が要ります。就業規則を変えるときは、その中身に納得できる理由があるかどうかが問われます。上げる場合は、この心配は要りません。

業務委託の方の1%は、店だけでは決められません

ここまでは、雇用のスタッフの話でした。業務委託の方は、別に考える必要があります。

業務委託の歩合率は、店だけでは変えられません。契約の変更になります。上げる場合も、下げる場合も同じです。とくに下げる場合は、ご本人の合意なしにはできません。

ここでいう業務委託は、契約書の題名のことではありません。実際の働き方が委託になっている場合の話です。出勤する時間や入る場所を店が決めていて、指示のしかたも雇用と変わらないのであれば、契約書に業務委託と書いてあっても、労働者として扱われます。いま雇用しているスタッフを、働き方を変えないまま業務委託に切り替えることはできません。

そのうえで、金額の性質も違います。業務委託の方に払うのは報酬であって、給与ではありません。そこから税金・国民健康保険・国民年金・確定申告にかかるお金を、ご本人が自分で払います。有給休暇も、雇用保険もありません。店が入っている労災の対象にもなりません。

ですから、雇用のスタッフの給与とそのまま並べて「こちらの方が多い」と比べられる金額ではないのです。同じ「月いくら」という顔をしていても、あとから引かれるものが違います。

21,000円に入っていないもの

出していないものを並べます。1%の金額を出す計算は、次のものを見ていません。

  • 指名料、店販の歩合、役職手当、残業代、賞与、退職金。1つも入っていません。残業がある店では、歩合を上げると残業代も一緒に増えます。店から出ていく額は、ここで出した金額より大きくなります
  • 1人ひとりの給料。出しているのは全員の平均で、売上が多い方と少ない方の差は見ていません
  • 売上が一定額を超えた分だけ率が上がる形。この形は、上乗せにも高い方にも当てはまらないので、計算できません
  • 手取り。税金と社会保険を計算していないので、出しているのは額面までです
  • 雇用のスタッフの社会保険の、会社の負担分。営業利益から引いていません。この分を引かないと、業務委託の方が店に有利に見えてしまいます。だから、引いていないことを書いています
  • アシスタントなど、歩合が付かない方を人数に入れるかどうか。この計算は決めていません。入れる場合は、1人あたりの技術売上と固定給も、その方たちを含めた平均にしてください。人数だけ増やすと、店の売上が実際より大きく出ます。この記事の21,000円は、3人で計算しています
  • アシスタントへの配分や、スタッフのあいだでの売上の分け方。店ごとに違いすぎて解けません
  • 業務委託の契約の中身が適切かどうか。契約や法律の判定は、一切していません

そして、いちばん大きい限界を1つ。その歩合率でスタッフが辞めるかどうか、募集して人が来るかどうかは、この計算では1文字も分かりません。

「何%が普通か」は、どこにも書いてありません

歩合の話になると、いちばん先に知りたくなるのは「他の店は何%なのか」だと思います。

その数字は出しません。適正な歩合率、つまり「これが正しい」という線を、1本も引いていないのです。他のお店の数字を、最初から持っていません。

代わりに、いまの自分の店の条件を、外から見える形に置き換えることはできます。いま在籍している3人と同じ条件で募集するなら、金額は390,000円です。ただしこれは3人の平均であって、特定の誰かの給料ではありません。

ですから、求人票に金額だけを貼らないでください。「月給390,000円(固定給180,000円+歩合。技術売上が月70万円の場合。当店スタイリストの実績)」のように、何の金額なのかを添えて書いてください。初任給ではありません。

その金額で人が来るかどうかも、やはり分かりません。分かるのは、いまの自分の条件が、文字にするといくらになるかまでです。

打つのは6つ、選ぶのが3つ。歩合率の欄は、空のまま開きます

サロン電卓の「人件費・歩合シミュレーター」は、いまの歩合率を入れると、スタッフ1人あたりの支給額と、店の営業利益を、同じ画面に並べて出します。スライダーで歩合率を動かすと、両方の金額が同時に動きます。

入れるのは、1人あたりの月の技術売上、家賃その他の毎月かかるお金、材料費率、スタッフの人数、1人あたりの固定給、いまの歩合率の6つです。あわせて、雇用か、業務委託か、両方か、業種(下の材料費率に目安を入れるためだけのもので、支給額は1円も変わりません)、歩合の付き方の3つを選びます。

はじめて開いたときは、歩合率の欄が空です。他のお店の数字を入れていないからです。1人あたりの技術売上・固定給・家賃その他・いまの歩合率の4つを入れたところで、支給額のカードが出ます。人数は、店の営業利益の方に要ります。

スライダーで動かせる上限は、いまの歩合率に20%を足したところまでです。ただし70%を超えては動きません。この上限の根拠は、実物の求人票1件だけです。それより高い率で契約している店もありますので、その場合は入力した率がそのまま使われます。

入れた歩合率は、次に「損益分岐の月商」に渡せます。その歩合率のまま、毎月いくら売れば赤字にならないかが出る画面です。

登録なしで使えます。入れた内容は、いまお使いの端末の中だけに残ります。サーバには送られません。個人の名前も、個人ごとの売上も、この画面は扱いません。スタッフの方と一緒に、同じ画面を見ながら話していただけます。

最後に1つだけ。実際に歩合率を変えるかどうかは、店の状況と、スタッフの方との話で決まります。金額は、その話を始めるための材料でしかありません。

あなたが次に「1%でいいので」と言われたとき、その場で7,000円と21,000円を出せる状態にしておいてください。返事が「考えておくね」から「1%だと、うちはこうなる」に変わります。その一言が言えるだけで、話の中身がまるごと変わるはずです。

この記事で使った道具
⚖️ 人件費・歩合シミュレーター

歩合率を動かすと、スタッフ1人あたりの支給額と、店の営業利益に何が起きるかを同時に計算します。歩合率1%が、店とスタッフそれぞれにいくらなのかを出します。

登録なしで、無料でお使いいただけます。

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